私たちは「初心忘るべからず」という言葉を知っていますが、実は 世阿弥の『風姿花伝(花伝書)』には、三段階の「初心忘るべからず」が書かれているそうです。
最初に「能楽」を習いたいという志を持って入門し、稽古に励みますが、そのときは誰でも謙虚になって勉強します。「是非の初心」は、この最初の初々しい気持ちを忘れてはいけないという教訓。
ところが、四十歳近くの年齢になると、稽古も年季が入り、芸も身について、自分ではもうわかったという心境になる、そういう態度が表面にでてきます。生意気になって有頂天になりやすい時期です。もう一度謙虚に反省し、入門したころの素直な初心に戻らなければなりません。それが「時々の初心忘るべからず」。
老後になった場合は、老後らしい芸の磨き方があります。派手なマイではなく、幽玄な老境らしい無策な自然の芸の境地に入らなければいけないのです。 これが「老後の初心」の心がけでしょう。年齢に関係なく、常に謙虚な心と姿勢が大切だとの教え。 ごま書房「気軽に読める人生の知恵」 今泉正顕著 より抜粋
私自身もついつい忘れがちになるときがあります。そんな時、チャンスがあれば武道に限らず、自らを学びの場におき、慣れた環境を変える。知らないことを知ろうとする「是非の初心」を思い出す。進むばかりでなく、戻ってまた進む「時々の初心忘るべからず」 そんな繰り返しでも良いのではないかと思います。